中津ん魚はやっぱりおいしい
山国川がそそぐ豊前海。ハモやベタ、ワタリガニなどの魚介類は、耶馬渓の自然が育んだ栄養で豊かに育ちます。豊前海は「魚介類の宝庫」と称賛され、みなさん口をそろえて言います。「中津ん魚はおいしい」と。
さて、みなさんは魚が食卓に届くまでに、多くの人たちが関わっていることを知っていますか?漁師、市場、仲買人、鮮魚店など・・・さまざまな人の思いが込められています。
魚が食卓に届く過程とそこに関わる人たちを紹介します。
魚市場の復活
ハモ、ベタ、ワタリガニ・・・。早朝、中津市外馬場にある魚市場には、豊前海で水揚げされた魚をはじめ多くの魚介類が集結します。
そこでは、魚の「競り」が行われます。競りとは、買い手に競争で値段をつけさせ、一番高い値段をつけた人に販売する取引きです。取引きを仕切るのは「せり人」で、買い手が指先で示す値段を読み取り、魚の値段を決めます。中津の魚介類は競りを通して、鮮魚店や飲食店などに売られていきます。
魚市場は魚介類の流通の拠点です。魚市場がなければ、魚は漁師からお店に、そして食卓にスムーズに届きません。
2019年3月、中津の魚市場は経営破たんのため一度閉鎖されました。中津の魚の流通が止まるかもしれないと、多くの人が心配しました。しかし、大分県漁業協同組合中津支店や中津水産物小売業組合など関係者の協力もあり、行橋水産㈱が経営者となり、「中津魚市場」として復活しました。
2020年12月28日で、新たな一歩を踏み出してから1年が経ちます。
魚が食卓に届くまで
※中津魚市場を経由せず流通するものもあります。
中津ん魚に関わる人たち
漁師
大分県漁業協同組合 運営委員
酒井 助廣 さん
●今の時期はどんな漁をしていますか?―今はタコ漁に行っています。毎朝船を出して、沈めていたタコかごを回収し、餌を入れたタコかごを仕掛けます。漁師の仕事は、毎日それの繰り返しです。大切なのは、1にポイント、2に仕掛け。よく獲れる人はいいポイントを知っています。
●他にはどんな漁がありますか?―漁船に網をつけて引っ張る底引き網漁があります。入口が広い「こぎ網」と鉄の爪がついた「貝けた網」を時期などによって使い分けます。夏はこぎ網でコタイやスズキなど、秋・冬は魚が砂底に潜るため、貝けた網で赤貝やカニなどを獲ります。地域や狙う魚などによって漁法が違うんですよ。
●一番得意な漁は?―一番はキス漁(4月〜9月)。楕円形で袋状の「ごち網」で獲ります。20分おきに網を上げるので、確認するのが楽しいです。コンテナいっぱいにキスが獲れることもあります。時々珍しい魚が入ることも。
●大変なことは?―水揚げ量が少ないときが大変です。昔に比べ漁獲量はかなり減りました。魚は年によってどれだけ獲れるかが分かりません。獲れないと漁に行きたくないこともあります。後継者も作りたいですが、魚が獲れないと厳しいと考えています。
●漁の楽しいところは?―生きた魚を獲るという点が楽しいです。たくさん獲れるともっと楽しいですね。漁師が好きで、生まれ変わっても漁師をしたいくらい天職だと思っています。
●好きな魚は?―キス。大きいものは塩焼き、小さいものはフライにすると本当においしいですよ!
中津魚市場
行橋水産㈱ 専務取締役
末松 八起
●魚市場にはどんな役割がありますか?―魚市場は漁師と魚屋の仲人みたいなもの。魚市場がなければ、漁師は獲った魚を魚屋一軒一軒に売らなければなりません。また、漁師は高く売りたい、魚屋は安く買いたい。漁師と魚屋の値段調整も魚市場の役割です。
●どんな思いで魚市場の経営に名乗りでましたか?―魚市場が調整役として間に入らなければ流通がスムーズにいかないので、同じ業種である漁師や魚屋が困っていました。漁師や魚屋を助けるためには魚市場が必要だと思いました。
●スタートして1年が経ちましたが・・・―もうこんな思いは二度と繰り返したくないと、漁協や仲買人、魚屋、行政などが一つになって協力体制をとるようになりました。みんなで盛り上げる体制になっていることは良いことだと思います。
●今後の中津の漁業についてどんな思いがありますか?―資源のことをよく考える必要があります。豊前海にはアサリやシャコなどもいましたが、今はほぼ壊滅状態です。ふるさとの大事な資源をこれ以上なくすわけにはいきません。自分たちのふるさとに海があることは宝です。海はどんなにすごい人でも作ることはできません。海をいかに大切にしていくかを考え、真剣に取り組んでいかなければならないと思います。それから漁師や魚屋の人材育成も大切。収入があり、魅力ある職業にしていき、若手を育てていくことが今後の課題です。
●好きな魚は?―アマダイ。西京焼きがおいしいです。豊前海だとワタリガニ。10月はオス、12月はメスで、海水で蒸すとおいしいですよ。
仲買人
中津水産物小売業組合 組合長
南 竜馬 さん
●旧魚市場がなくなった時の状況はどうでしたか?―私の店は魚市場で魚の90%近くを仕入れていたので大変でした。毎日「明日はどうしようか」と考えていました。魚市場は管財人が入って封鎖されましたが、魚市場の買い手がつくまでは自分のところの客であれば場内で販売してよいと許可が出ました。魚は漁師に直接持って来てもらったり、他の市場から運んで来てくれる専門のトラック便の業者に頼んだりしました。漁師さん、トラック便の業者さんには大変感謝しています。
●その時の心境は?―市場を出て何かをするか、ここに残るかを迷った時期もありました。お客さんに見切りをつけられるのではという心配もありましたね。魚屋も飲食店も困っていましたが、みんなで一緒に頑張っていこうとお互い努力を続け、市場再開の時を迎えることができました。普段からの信頼関係があったからこそ乗り越えたのだと思います。
●今後の中津の漁業についてどんな思いがありますか?―まずは、魚市場のイメージアップ。そもそも魚市場があることを知らない市民も多いです。そして、魚食普及。魚を好んで食べるのは60代以上の年配の人で、肉や野菜に比べ、魚は量の割に高いと思われています。それらを払しょくするような魚食普及を考えなければなりません。みんなで知恵を出して、魚に関心を持ってもらい、身近に感じる取組みをしていきたいと思います。温暖化や漁師の高齢化で、今後10年の間に豊前海での水揚げ量は減っていくと考えられます。年間を通して獲れるハモやベタなどで何か加工品を作り、ブランド化とかができればいいなと思います。
●好きな魚は?―ベタ。ムニエルにするとおいしいんです。からあげや一夜干しもいいですね。中津の魚屋ならどこに行ってもベタは売っていますよ。
鮮魚店
恒成鮮魚宮永店 店主
恒成 由美子 さん
●お店は何年くらいしていますか?― 40年近くになります。元々は主人の両親がやっていて、私が継ぎました。
●苦労したことはありますか?―最初は魚のことを知らなかったので、名前や切り方を覚えるのに苦労しました。仕事の合間を見て、友だちの魚屋さんに切り方を習いに行きました。魚が売れない時期は、どうしたらよいかわからなくなり、一人涙することもありましたね。電話注文をもらうためにチラシを作り、電話代の10円玉を貼ってポストに入れたり、生魚が売れないときには惣菜を作ったりしました。
●魚市場の復活はどうでしたか?―いろんな人の応援のおかげで、あまり休まずに再開ができたので感謝しています。再開する前は魚が思うように手に入りませんでした。今は何とか頑張っています。
●どんな人が買いに来ますか?―この辺りの年配の人が多いです。10時30分頃になるとお店に集まってきて、昼までしゃべって魚を買って帰る、そんな地域のより所になっています。中にはおしゃべりするのが楽しみで、家族に「今から笑い劇場に行ってくる」と言って来る人もいます。
●人気がある商品は何ですか?―やっぱり旬の地魚が人気です。惣菜や刺身もよく買ってくれます。人数や年齢で量や切る厚さを変えたり、希望に応じて刺身用・煮物用・焼き用などに切り分けたりします。お客さんが次の日「昨日のあれ、おいしかったよ」と言ってくれたときが一番うれしいです。特に子どもや若い人たちに食べてほしいですね。おいしくて新鮮な魚をぜひ買いに来てください。
●好きな魚は?―サバとイワシ。サバは時間をかけて煮付けにし、イワシは梅干しと一緒に圧力釜で炊くと骨ごと食べられるまで柔らかくなります。はちみつを入れると、臭みがとれるのでオススメです。それと、新鮮なお刺身ならどんなお魚でも大好きです!
「市報なかつ令和2年12月15月号より」